Part1(1999・10)
旅立ちは夜の新宿駅。特急列車が発着する5・6番ホームに、私は立っていました。
10月14日鉄道の日、20時半。仕事を終えた私は、その足で旅に出るつもりにしていたのでした。
気がかりなのは、雨が降っていることだけ・・・。

今回、最初に乗る列車は、新宿21時発、「あずさ69号」松本行き。新宿から中央線経由でその日のうちに松本へ到達する最後の特急です。
東京から長野方面へ向かうには、もちろん長野新幹線「あさま」を使う手があります。もちろん、この時間でも「あさま」に乗れないこともなかったんですが、あえて今回は、この最終「あずさ」にこだわりました。

中央線といえば私の地元路線。当然、昼間は何度も特急、あるいは普通電車で松本方面へは行っているわけですが、なにしろ、夜の下りというのは皆無。だからといって、夜行急行「アルプス」に乗れるほど、体力に自信があるわけでもありませんでした。深夜特急の雰囲気を味わえる下り「あずさ」を、一度経験しておきたかったというのが、まず第一の理由。

そして第二。実は、ごくたまにですが、私はこの「あずさ69号」には通勤帰りに乗っていました。もちろん、私が住んでいるのは八王子なので、いつもは八王子で下車しているんですが、その先を、いつかは・・・という思いは、ずっと持っていました。
というわけで、「かいじ118号」から折り返し運用となる「あずさ69号」に乗ることにしたのでした。
車両は左写真の長野総合車両所189系グレードアップ車11連、N205編成。私の指定席は8号車・モハ189-4の11番A席。進行方向右側の窓側席です。

21時ちょうど。列車は定刻どおり、新宿駅5番線を発車。実際のところ、もっと混み合っているかと思っていたんですが、1シートに1人くらいしか座っておらず、見た目にはかなり空いている印象でした。
新宿を出てすぐ右手に見えるスタジオアルタの気温計は、18℃の表示。予報では、あくる日以降は寒くなるといっていたので、すでにその予兆なんでしょうか。

都会の街灯りを走馬灯のように眺めつつ、列車は走ります。右側の上り線を見やれば、ガラガラの快速電車がすれ違っていきます。「あぁ、いつも通勤時にあんな感じの電車に乗れたらなぁ」・・・そんなこと、普段はまずありえないんですがね。(^^;)
21時12分、列車は吉祥寺を通過。前に電車が詰まっているのかノロノロ運転。駅前のビルについている気温計は16℃を示しています。新宿からそう遠くないのに、すでに2℃も違うということが驚きですね。
その2分後、列車は三鷹駅4番線に停車。反対側の3番線に停まっている立川行き電車は、ドアから人があふれるような混雑ぶり・・・。いつも経験していることではあるんですけど、あの混雑だけはどうしようもなく嫌なんですよね。

三鷹を過ぎると列車はそれまでの高架から地上線に降りてきます。
まもなく、三鷹から立川までの区間は複々線化工事が本格的に行われることになるわけですが、すでにパンク状態といっていい中央線の混雑緩和・輸送力増強のためには、必要な事業なんだと思います。

「あずさ69号」は、2分遅れの21時26分に立川を発車。次は私の地元・八王子。多摩川を渡り、日野、豊田と通過します。いつもの通勤区間ではあるんですが、やはりいつもと違って見える感じがするのは、おそらく気のせいではないでしょう。
オレンジの201系や103系、スカ色の115系などが休む豊田電車区を左手に見下ろしながら右に左にカーブを切り、浅川を渡るとそこはもう八王子市内。いつもならそろそろ下車準備をするところですが、きょうはその必要はなし。実に優雅なもんです。(笑)

「あずさ69号」は、八王子でも2分遅れの21時35分に発車。ここからは中央東線の山線区間に入っていきます。列車密度の低い区間に入ってきたためか、列車のスピードが若干上がったような気がしますね。

高尾を過ぎると、そこは列車公衆電話も使用できなくなる山間部。暗闇のなかを、列車はひたすらに走ります。トンネルも多くなり、ただでさえ暗い窓外は当然単調になります。時折、右手上方に中央自動車道の灯りが見えるのみ・・・。やはり、昼間走るのとはまったく違う雰囲気ですね。
八王子を出て、隣席に誰も来なかった・・・ということは、終点まで隣りに誰も来ないと見ていいんでしょうね。気兼ねしなくてもいいんだな、と、少しだけホッとしました。

途中の四方津で、上りの最終特急となる「スーパーあずさ16号」と離合。向こうも見たところ、かなり空いているようです。
鳥沢を出て、新桂川橋梁を渡っていきます。鉄橋を渡る轟音だけが響いていますが、深い谷になっている窓の外は、漆黒の闇のなかです・・・。

22時3分、定刻1分遅れで大月に到着。あんなに飛ばしていたのに、遅れは1分しか縮まっていないんですよね。右手に見える電留線では、大月滞泊となる201系編成がパンタを降ろし、眠りに入るところですね。
大月を出た列車は、さらに山を登っていきます。カーブも多く、次第にスピードも鈍ってきました。このあたりが、振子特急であるE351系「スーパーあずさ」との到達時間の差になって表れるんでしょう。

笹子を過ぎると、ここのサミットである笹子峠にさしかかります。その先は、一気に坂を下っていきます。トンネルのまっすぐな中を突き進む列車の速いことといったら・・・それまでの坂登りのあえぎぶりがうそみたいですね。
勝沼ぶどう郷を過ぎると、左手には甲府盆地が見下ろせます。夜なので眺望よしとはいきませんが、それでも街灯りが見えて、それなりにいい感じに見えます。

盆地まで降りきると塩山着。ここで遅れがほぼ戻った様子。定刻22時24分に発車し、盆地をひたすら驀進します。このあたりはすでに雨があがっていました。
「あずさ69号」は、まるで「かいじ」並みに山梨市、石和温泉とこまめに停車し、22時39分、再び1分遅れとなって甲府に到着しました。左手に見える身延線5番ホームでは、JR東海の新鋭313系による鰍沢口行き普通列車が乗り継ぎ客を待っていました。かなりの乗客が、席を立って降りていきました。

列車は1分停車のあと、甲府を発車。遅れを取り戻すためか、先を急ぎます。
「あずさ69号」は最終特急列車であるためか、甲府から先も停車駅は多めに設定されています。韮崎、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻と、停車を繰り返しながら進んでいきます。

甲府を出てしばらく、再び街灯りが少なくなってきました。再び山登りに入ります。
韮崎22時50分発、遅れはまだ1分残っています。上り坂の途中にホームがあるため「坂道発進」となり、列車はあえぐように坂を登っていきます。
いつもなら、この先では右手には八ヶ岳、左手には南アルプスが見えているはずのところですが、さすがに夜。真っ暗で何も見えないですね。(^^;)

列車はなおも山登りを続けていきます。気圧の変化で耳ツンがしはじめました。(笑)
長坂を過ぎ、八ヶ岳をバックに列車を撮影できるポイントとして知られる長坂の大カーブを曲がっているのが分かりますが、周りには若干の家々の灯りが見えるだけ・・・。

それにしても、こんな時間に、夜行でない特急に乗っているというのは、私自身、いつ以来なんでしょうか? 新幹線を除けば、生まれて初めてのことかもしれないですね。
列車は23時8分、小淵沢着。まだ1分遅れです・・・。
豊川悦司が駅員役で主演したドラマ「青い鳥」の舞台となった信濃境駅を高速で通過。中央線最高地点(海抜955m)の富士見に達します。ここはすでに長野県内。その先は下り坂となり、列車は抑速をかけながら諏訪盆地へ向けて下っていきます。

茅野から岡谷までは各駅に停車。諏訪湖をはじめとした観光地を控え、かつ精密機械メーカーの工場も立地するこのあたり、この深夜の時間でもある程度の需要を見込んでの停車なんでしょう。
岡谷を出ると塩嶺トンネルを抜けて塩尻へ。塩尻を出ると篠ノ井線に入り、果樹園のまっただなかを(とはいっても暗いので見えないですが・・・)直進します。
車端部のLED表示器には、「次は 松本」の文字が表示されました。いよいよです。
115系やE351系、183系が眠る松本運転所の留置線が見えてくると、「あずさ69号」はほどなく松本駅4番線に到着。結局1分の遅れは戻りませんでした。
列車を降りて、跨線橋を改札へ向けて歩く途中に一枚。夜の松本駅、というのはめったに見ない情景だけに、思わず見とれていました。
駅を出ると、すでにビルの時計は0時を指していました。そそくさと、駅前のビジネスホテルに入りました。
明日も朝が早いので、さっさと寝ないと・・・。
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